知的障害者の持つ健常者に対するイメージ
0207060 高畠 康典
【問題・目的】
 近年,日本における知的障害者に対する健常者の態度・イメージに関連する研究は数多くなされている。社会一般の人々の障害に対する態度が障害者の社会参加の推進やノーマライゼーションの理念を進めていくことの大きな影響を与える。そのため,実態を調査し,そして否定的態度が存在するならばそれらを肯定的で好意的なものへと態度を変容し偏見を解消していくことができる方策を探求していこうと研究は進んでいる。生川(1998)は知的障害者に対する態度研究について現状と課題をまとめた。その中で生川(1998)は知的障害者の社会一般の態度に対する認知についての研究の必要性,障害者がどのような理解を求めているかという本人の声についての調査の必要性を指摘している。このことから,今日において知的障害者本人を調査,研究対象とした態度に関する研究は少ないことがうかがえる。これを踏まえ,本研究では知的障害者の声について考えていきたい。
 本研究の目的はまず,知的障害者が持つ健常者イメージの基礎的調査を行う。この際,健常者という刺激概念について「身近な健常者」と「見知らぬ健常者」という二つに分け,健常者に対するイメージについて質問紙に回答させ,「身近な健常者」「見知らぬ健常者」についてどのようなイメージを抱いているか把握する。また,この調査から知的障害者の「健常者イメージ」質問の回答に再現性が見られるか検討し,知的障害者に対する質問紙調査の可能性について考察する。
 さらに得られた回答から「身近な健常者」と「見知らぬ健常者」のイメージに差異が見られるか比較検討を行い,それぞれ性差,年齢差において差異が見られるかついても比較検討を行い,結果について考察する。
 【方法】
 調査の手続きは,知的障害者の抱く健常者に対するイメージを情緒的に評価するためにSD法を用い,質問項目は,過去の障害者に対する態度の研究より26項目抜粋し,被験者である知的障害者に理解できうる質問項目を13項目選出し,刺激概念を「身近な健常者」と「見知らぬ健常者」の2種類に設定した。13項目についての評価をそれぞれ5段階の評定でポジティブな側面からネガティブな側面へと(1.そう思う 2.少しそう思う 3.どちらともいえない 4.少しそう思う 5.そう思う)に分け,いずれかひとつに○をつける回答形式であった。評価値はポジティブな側面からネガティブな側面へ5点から1点まで配点し,3点を中点とした。質問紙の項目,および刺激概念についてどの程度の理解が望めるか予測できないので質問項目の信頼性を確かめるため,一人の被験者に再度改めて同一の質問紙を回答させる再テスト法を用いた。
【結果・考察】
質問紙調査の結果,再現性について,一回目回答と二回目回答の相関関係について13項目中7項目で有意な相関が見られた。また,完全一致率は高く,平均で44.7%であった。これらのことから,今回の調査には再現性が見られると考えられた。分析の結果から「身近な健常者」と「見知らぬ健常者」を比較検討した場合,知的障害者にとって普段接している「身近な健常者」は普段接している他人である「見知らぬ健常者」と比較すると「きちんとしている」,「ゆかいである」「好ましい」「温かい」「やさしい」「親切である」「関わりたい」「ありがたい」「安全である」と感じていることがわかる。しかし,「見知らぬ健常者」に対しての得点は全体的に低いものではなく,ほとんどが中点に近い値を得点していたので知的障害者が「見知らぬ健常者」に抱くイメージはさほど悪いものではなかったと言える。これに関連づけて性や,年齢において差違が見られるか検討した結果,健常者に対するイメージは側面によって差違が見られることがわかった。
 今回,被験者となった知的障害者は,「身近な健常者」と日々接触し,共生している。彼らにとって「健常者」という言葉は日常関わっている「身近な健常者」を指すのだろう。しかし,「見知らぬ健常者」は彼らにとって全くの他人であり,それ以上の何者でもないなかもしれない。我々は社会を構成している一員と捉えるだろうが,彼らにとって「見知らぬ健常者」は他人以上でも以下でもないのかもしれない。彼らは自分たちと他人である「見知らぬ健常者」との間に境界線を引いているのかもしれない。
(指導教員 豊村 和真教授)