大学生における性と友人関係との関連性についての研究
0207043
大井 貴史
【問題・目的】
青年期における重要な対人関係の一つに友人関係がある。この友人関係には性差が見られることが明らかになっており,和田(1993)は,性差だけではなく性役割タイプ差も見られるとしている。しかし性役割については近年,特に若者において伝統的な女性役割や男性役割の区別が薄れてきている。これに伴い性役割タイプにも変化が及び,男女の性そのものにも影響を与えていると考えられる。
そこで本研究では,現代の日本の大学生における性および性役割タイプと同性友人関係との関連性を明らかにすると同時に,現代の日本の大学生においても和田(1993)と同様の結果が得られるかを検討することを目的とする。この目的の検討のために以下の仮説を検証する。
@男性友人関係は手段的であるのに対し,女性友人関係は情動的なものとなる
A男性で女性性の高い者は女性の友人関係に類似して,情動的色彩が強くなる。一方,女性で男性性の高い者は,男性の友人関係に類似し,手段的となる。
【方法】
調査対象:大学生を対象とした。そのうち分析対象としたのは306名(男性102名;女性206名)であった。
質問紙の構成:情動の自己開示の測定では,和田(1993)の作成した尺度を用いた。それぞれの情動状態の時,同性友人全般にそのことをどの程度うちあけるかを5件法で回答させた。友人関係に望むものの測定では,和田・廣岡・林(1987)による同性の友人関係全般に望むもの10領域を用いた。質問紙においては,領域名は示さずに各領域の具体例を2つずつあげ,各領域をそれぞれ一対にして提示し,同性友人との関係においてのいずれを重要と考えるかを回答させた。各領域の得点は,一対ずつの提示で丸を付けたものの数とした。性役割タイプの測定では,若林・鹿内・後藤(1981)による性度尺度を用いた。項目は19項目からなるが,男性性項目は9項目,女性性項目は10項目であり,回答は7段階評定とした。
【結果・考察】
情動の自己開示項目に関して下位尺度を構成するために因子分析(主因子法,バリマックス回転)を行った。その結果,固有値1以上という基準で6因子を抽出した。
性の及ぼす影響:性の及ぼす影響に関しては,女性は親友に物事について同じように感じてくれる人(情緒的)を求めるのに対し,男性は同じことをするのが好きな人(手段的)を親友として求めるとしているという従来の研究結果による性差と一致する結果であるとともに,和田(1993)の先行研究の結果とも一致するものであった。
性役割タイプ差の影響:和田(1993)の分析方針に準拠して,男女別々に女性性,男性性のメディアンで分割し,ともに高い両性性(MF),ともに低い未分化(mf),一方が高くて一方が低い男性性(Mf),女性性(mF)とした。そして,各尺度に男性性(高低)×女性性(高低)の分散分析を行った。その結果,情動の自己開示および友人関係に期待するものの両者共に和田(1993)の先行研究の結果とほとんど一致しないものであり,本研究においては性役割タイプがそれぞれの性差を強める方向に作用しているとはいえないことが見出された。
性役割タイプ差の及ぼす影響の結果が和田(1993)の研究結果と大きく異なった理由について検討するため,若林ら(1981)による性度尺度19項目においてt検定を行った。その結果,男性性項目においては,男性の方が女性よりも自らのイメージとして全体的によりあてはまると考えているものの,女性においても平均値は全体的に高く,『たくましい』という項目においては女性の方が平均値は高かった。また,女性性項目においては男性の方が女性よりも自らのイメージとして全体的によりあてはまると考えていることが示された。つまり男女の性役割タイプが変化しているのである。男性は男性性をそのままに女性性が高くなり,女性は女性性が薄れ,男性性が高くなってきているのである。
本研究の結果からは,男女の同性友人関係の性差は,社会化で男女に何を重視するかが反映された結果である (和田,1993)とは一概に言うことはできない。今後は同性友人関係において性差が生じる理由についてあらゆる角度から検討していく必要がある。
(指導教員 豊村和真教授)