高齢者の精神的健康に対するペットの効果
0207035
成田 法卓
目的
本研究では、ペットの飼育という行為が、高齢者の精神的健康に与える効果を検討することを目的とし、さらに、ペットの飼育に対して間接的に影響を与えると考えられる要因である、ペットに対する愛着度の程度、ペットの種類、世話の種類による精神的健康への影響や、年齢とペットとの関係性、性別とペットとの関係性についても検討を行った。
方法
札幌市のシニア大学に通う60歳以上の高齢者157名を対象に、年齢と性別、ペットの有無とそのペットの種類、飼育の有無と飼育内容、精神的健康に関する質問紙調査を行った。
精神的健康に関する質問については、矢冨(1994)の3因子からそれぞれ因子負荷量の高い2項目を選出し、さらに第1因子については非常に似通った項目のため、2つの項目を1つの項目に統合した計5項目を、板津(1992)の5因子の中から、第3因子と第5因子を選出し、それぞれ因子負荷量の高い2項目を選出し、さらに第3因子については非常に似通った項目のため、2つの項目を1つの項目に統合した計3項目を、諸井(1991)の社会的孤独感3項目と情動的孤独感3項目から、因子負荷量の高い項目をそれぞれ1項目ずつ選出した計2項目を合わせた計10項目を使用し、5件法で回答させた。
分析には、χ2検定及びFisherの正確検定を使用した。
結果
ペットの飼育に関してはペット非飼育者の幸福感が有意に低い傾向が見られ、ペット飼育と性別に関してはペットを飼育している女性の協調性が有意に高い傾向が見られ、ペット飼育と年齢に関してはペット飼育者・非飼育者の両群で71歳以上の者の孤独感が有意に低く、ペット飼育者の71歳未満の者の孤独感が有意に高かった。
ペットに対する愛着度の程度に関しては愛着度の高い者の協調性が有意に高く、愛着度の低い者の協調性が有意に低く、愛着度と性別に関しては愛着度の高い女性の人情主義と協調性と幸福感が有意に高い傾向が見られ、愛着度と年齢に関しては愛着度の高い71歳以上の者の孤独感が有意に低かった。
ペットの種類に関しては精神的健康に関して有意な差は見られなかった。
世話の種類に関しては、ご飯の世話と性別に関してはご飯の世話をしている女性の人情主義と協調性が有意に高い傾向が見られ、ご飯の世話と年齢に関してはご飯の世話をしている71歳以上の者の孤独感が有意に低い傾向が見られ、ご飯の世話をしていない71歳未満の者の孤独感が有意に高い傾向が見られ、散歩の世話と年齢に関しては散歩の世話をしていない71歳未満の者の人情主義が有意に高く、トイレの世話と性別に関してはトイレの世話をしている女性のエネルギーが有意に高い傾向が見られ、トイレの世話をしていない女性の協調性が有意に高く、エネルギーが有意に低い傾向が見られ、トイレの世話をしていない男性の協調性が有意に低かった。
考察
これらの結果は、ペット飼育の効果を部分的に示しており、特に愛着度と世話の種類は高齢者の精神的健康に対する効果が強いということが考えられる。さらに、男性よりも女性のほうがペット飼育の影響を受けやすいということや、高齢者の精神的健康については、協調性や人情主義、孤独感といった他者との関係についての面でペット飼育の効果が顕著に見られるということが考えられる。
なお、本研究では、ペットを飼っていない者・飼育者・非飼育者間の比較ができなかったことや、本研究では、対象がシニア大学の高齢者であったため、シニア大学という社会的サポートの影響が考えられるが、他の属性(何も援助を受けていない等)の高齢者との比較ができなかったことなどが課題として挙げられる。
最後に、回答法について、本研究では5件法で回答を求めたが、データに大きく偏りが見られたため、3件法のほうが適当であると思われる。
指導教員…豊村 和真