大学生の障害者に対する役割期待
0207024
小林 雄太
【目的】
役割という言葉は,ある地位を占める人々に期待される一群の行動様式であるとしている。この「役割」という言葉と強く結びついた概念が社会的地位,あるいは社会的位置の概念である。岩井(1972)は「地位は位置であり,役割は行動であるといってもよい」と示している。つまり,社会的地位と社会的位置とは同じ意味である。そして,この研究では社会的位置という言葉を採用する。
次に役割期待とは,その社会的位置にいる行為者に対して,他者がその社会的位置にふさわしい役割・行為・行動を期待することであると考えられる。そして,役割期待を考えるときには,行為者だけでなくてその人の社会的位置というものも加味されなければならない。その行為者がこういった社会的位置にいるなら許せるが,こういった社会的位置にいる人なら許せないという考えが成り立つので,許容という考えもその人の社会的位置に向けられているものだと考えられる。つまり,許容という考えも1つの役割期待と考えることができるはずである。以上のような考えから,本研究ではこの行為者や社会的位置に向けられる他者からの行為・行動,つまり役割の期待である役割期待は,「障害者」も社会的位置と考えた時に障害のない人とは違う役割期待が存在するのか検討する。
その際,その役割期待に影響するであろう要因として,性別,接触経験,学部,障害者や福祉に関する知識の高低を取り上げ,これらによる違いについても検討する。
【方法】
被験者:大学生244名,性別の内訳は男性70名,女性174名であった。
質問内容:社会的に望ましくない,あるいはうらやましいと思うような行為28項目を一般の人が行った場合と,障害者が行った場合に分け,それぞれその行為をどれだけ許すことができるのかを6段階評定で聞いた。知識項目はその項目が正しいと思うものには「はい」に丸をつけてもらい,間違っていると思うものには「いいえ」に丸をつけてもらうというような二択式とした。
【結果と考察】
1.役割期待得点とその要因別平均値:全体として<結婚しない><大金持ちになる><異性に気軽に声をかける>がマイナスの値となり,それ以外はプラスの値となった。男女別では,女性の方が高い値を示した項目が多く,接触経験では,接触経験ありの方が高い値を示した項目が多く,学部別では、文学部が高い値を示した項目が多かった。
2.因子分析による役割期待得点の項目:役割期待得点の項目において下位尺度を構成するため,因子分析を行った。その結果6因子を抽出した。それぞれ,<礼儀行為因子><対人交流・浪費行為因子><他害行為因子><自立・迷惑行為因子><欲求行為因子><マナー因子>と名づけた。<欲求行為>のみ役割期待得点がマイナスの値となった。
3.要因別の役割得点平均値の比較:性別,接触経験,学部を要因とした2×2×3の3要因の分散分析を行った。その結果,<困っている人に対してみて見ぬふりをする>の項目で性別の主効果が,<約束の時間に遅れる>の項目で学部の主効果がそれぞれ見られた。
今回の研究の結果から,障害者と一般の人が同じ行為を行った時には,違った役割期待が存在していることがわかった。そして,要因別でも,性別と学部で差の出る行為があるということも明らかとなった。今回はこの役割期待が障害者に対してもあるのかというところから始まり,さらに,それを要因によって分けた時にもそこに違いがあるかを検討し,その存在があることが支持されたが,その役割期待の違いがどのような理由から成り立っているのかまでは明確な理由を示すことができていない。今回の問題点は,知識の項目を簡単にしすぎてしまったため,知識項目の得点が偏りすぎたことで,この知識項目をうまく構成し,今後研究してみる必要があるだろう。その他,イメージや態度との関連や,<欲求行為>のみがマイナスの値を示したことなど,これらについての検討が必要であろう。そして,この役割期待を探る項目を様々な角度から検討し作成していく試みが必要とされるのではないだろうか。
(指導教員 豊村和真 教授)