視覚・聴覚障害学生に対するイメージの意味構造
―中学生・高校生・大学生についての検討―
0207022
菊地 麻里
【目的】
本研究では,大学生,高校生,中学生という発達段階の違いが視覚障害学生(生徒)及び聴覚障害学生(生徒)に対するイメージの意味構造にどの程度影響があるのかを検討するとともに,視覚障害学生あるいは聴覚障害学生に対する賞賛的評価が学年に関係なく見られるものか否かについて明らかにする。
【方法】
調査は,2005年10月13日から同年11月2日にかけて行われた。北星学園大学文学部,経済学部,社会福祉学部の学生(男性65名,女性146名の計211名;有効回答率95%),札幌市にある高等学校の1,2年生(男性93名,女性129名の計222名;有効回答率98.2%),同じく札幌市にある中学校1,2年生(男性60名,女性63名の計123名;有効回答率97.6%)に対し,質問紙法を実施した。
調査項目は,河内(2001)のイメージ連想法で得られた形容詞及び井上・小林(1985)の形容詞対の因子負荷量を参考にし,「弱い」「苦しい」「不自由な」「努力家の」「意欲的な」「無責任な」「こわい」「真面目な」「格好の良い」「消極的な」「落ち着いた」「明るい」「暗い」「楽しい」「なまけ者の」「素晴らしい」「性格の良い」「積極的な」「素直な」「美しい」「やさしい」「不真面目な」「無気力な」「強情な」「強い」「自由な」「落ち着きのない」「責任感のある」「うらやましい」の29語を刺激語として用いた。
視覚障害及び聴覚障害学生(生徒)の対象概念として,河内(2001)同様,対人魅力の分野から対人魅力を持ちたいと思う「好みの女子学生(生徒)」と「好みの男子学生(生徒)」を,また個人的能力の分野では学校生活において重要な学業に関し「学力優秀な学生(生徒)」を選んだ。回答者にはこれら6つの標的概念に対して,それぞれあてはまる形容詞を29語の中から選ばせ,いくつでも丸を付けさせた。
【結果・考察】
まず,[標的概念6×学生群3]×[形容詞29]のクロス集計表から対応分析を行い,3成分を採用した。各成分は次のような形容詞で構成されていた。
(1)成分T 苦しい,不自由な,こわい,明るい,なまけ者の,自由な,楽しい,美しい
(2)成分U なまけ者の,無責任の,無気力の,落ち着きのない,消極的な,強情な,弱い,美しい,うらやましい
(3)成分V 不自由な,真面目な,うらやましい,不真面目な
成分Tは自由・不自由を,成分Uはスチューデント・アパシー度を,成分Vは身体状態・特徴及び賞賛可能な性格を表していると推察された。同様に大学生,高校生,中学生に対して対応分析を行ったが,各成分に対して類似した形容詞が得られ,発達段階による著しい違いは見られなかった。
次に,視覚障害学生(生徒)及び聴覚障害学生(生徒)の標的概念に対し想起された形容詞の出現頻度を3つの学生群ごとに算出し,3学生群の出現頻数の合計が10以上のものの形容詞に対して百分率(出現率とする)を求めた。その結果,出現率が10%を超えた形容詞は両障害とも「不自由な」「努力家の」であった。学生群別及び障害種別について比較検討すると,大学生では視覚障害学生と聴覚障害学生のイメージが異なり,聴覚障害学生の「意欲的な」「真面目な」「積極的な」の出現率が「強い」に次いで高かった。ここから大学生が,視覚障害学生より聴覚障害学生を好意的に捉えていることが伺えた。また中学生では,障害種別に関係なく他の学生群より障害生徒に対し,肯定的イメージが低いようであった。これは山内(1984)が小学生を対象に行った研究で見られた低学年は高学年よりポジティブなイメージを持つという結果とは異なっており,今後更なる検討が必要であろう。
さらに,全体的に見ると「努力家の」「強い」「親切な」など肯定的なイメージを持っている一方で,「不自由な」「苦しい」「弱い」など否定的なイメージを持っていることが明らかとなり,また両概念の出現率に大きな差は見られず,障害種別が異なっていても全体的には共通したイメージのあると推察された。
(指導教員 豊村和真 教授)