自己開示と発言抑制が精神的健康に及ぼす影響に関する研究
−会話相手による違い−
0207017 伊藤 晃


【目的】
 本研究では,畑中(2003)の研究に基づき,発言抑制と精神的健康との関連を踏まえ,これまでの自己開示研究でも精神的健康との関連が明らかにされていることに着目し,自己開示度と発言抑制の頻度が精神的健康にどのような影響を及ぼすのかを検討することを目的とする。自己開示度と発言抑制の頻度が性別や会話相手(最も親しい友人,母親,父親)の違いによってどのように変化し,その間にはどのような関係があるのかを検討する。また,先行研究間で一貫性が見出されていない,自己開示尺度及び発言抑制尺度の下位側面が精神的健康にどのような影響を及ぼすのかについて検討する。具体的には,自己開示及び発言抑制と精神的健康の関係が一次関数的もしくは二次関数的(逆U字型)のどちらであるのかを再検討する。
【方法】
 発言抑制の頻度に関しては,畑中(2003) による「発言抑制に関する尺度」を参考に、発言抑制5側面(相手志向,自分志向,関係距離確保,規範・状況,スキル不足)に関して発言抑制の頻度を問う形式で行った。発言抑制の各側面(相手志向,自分志向,関係距離確保,規範・状況,スキル不足)ごとに4−5項目,計21項目であり,すべて5件法(5.“よくある”−1.“ほとんどない”)で回答させた。自己開示尺度に関しては,榎本博明(1982)の「自己開示尺度ESDQ-45」では15側面それぞれ3項目であるが,今回の調査では研究者らにより15側面それぞれ2項目,計30項目で採用し,5件法(5.“十分に話してきた”−1.“全く話したことがない”)で回答させた。また,発言抑制及び自己開示尺度に関しては,会話する相手による違いを検討するために,「最も親しい友人」,「母親」,「父親」の3種類の質問紙を配布し,回答させた。精神的健康に関しては,Worsley&Gribbinによる「精神的健康尺度(GHQ-12)」に従い,12項目4件法で回答させた。調査の対象は北星学園大学の大学生323名(男性139名,女性184名)であった。また,調査は筆者による個別配布個別回収方式と講義時間内での集合形式のいずれかで実施された。
【結果・考察】
 自己開示尺度及び発言抑制尺度が性別,会話相手の違いによってどのような関係があるかを検討するために分散分析を行った結果,男性がよく自己開示する相手として最も親しい友人,次いで母親,父親と続いた。女性も同様であったが,最も親しい友人と母親への自己開示量がほぼ同じであった。発言抑制の頻度に関してもほとんどの側面で男女ともに最も親しい友人,次いで母親,父親の順に発言が抑制されていた。本研究の第1の結論は,会話相手の違いによって自己開示度や発言抑制の頻度が変化したことである。会話相手によって自己開示する内容が異なり,また発言が抑制される側面にも変化が見られた。これは,会話相手によって自己開示する動機が異なることから生じたのではないかと考えられる。
 次に,自己開示及び発言抑制と精神的健康との関連が一次関数的であるか二次関数的であるかを検討するために,下位側面ごとに重回帰分析を行った。分析の結果,畑中(2003)の研究結果と同様,精神的健康との関係はすべて一次関数的であった。したがって,いずれの下位側面においても二次関数的でないことが明らかになった。男性の場合,物質的自己の自己開示と関係距離確保による発言抑制が多いと精神的に健康な傾向を示すことが明らかになった。また,実存的自己の自己開示が多いほど精神的に不健康な傾向を示すことが明らかになった。女性の場合,相手志向と状況・規範による発言抑制が多いほど精神的に健康な傾向を示すことが明らかになった。また,自分志向による発言抑制が多いほど精神的に不健康な傾向を示すことが明らかになった。第2の結論は,自己表現行為と精神的健康との関係に関する先行研究では一次関数的のみならず,最適水準を持つ二次関数的関係が指摘されていたが,本研究で見出された結果は,全て一次関数的であった。自己開示及び発言抑制の頻度が精神的健康に影響に及ぼす側面に関しても,男性と女性では違いが見られた。これは,それぞれの異なる性格特性と関連しているのではないかと推測される。
指導教員 豊村 和真教授