大学生における障害者役割期待の検討

0107065

古谷 純子

【目的】

社会は障害を持つ人に対し「障害者」を地位とみなし、障害者という役割を期待しているのではないかという役割理論に基づいた「障害者役割期待」に関する研究がなされ、個人の様々な特性よりも障害者としての行為を優先し期待していることが問題と報告されている。たしかに我々は障害を持つ人に対し、「障害を乗り越え前向きに生きてほしい」という期待が存在するように思われ、これまでの研究でも障害を持つ人の障害を持つことによる役割期待の存在が前提となっている。しかし、障害を持つ人には健康な人とは異なる役割期待が、実際に存在しているかについては明らかにされていない。そのため本研究では、1.障害を持つ人には健康な人と異なる「障害者役割期待」の存在の有無を明らかにしその構造を検討する、 2. 「障害者役割期待」に影響を及ぼす要因の検討を目的とする。

【方法】

調査期間 20048月〜20049月。

調査対象:北星学園大学社会福祉学部学生109名(男24名、女85名)。

調査内容:「一般の人」「障害を持った人」という行為者の違う同じ行為について、その許容程度から各行為者に対する期待をとらえるため社会行為53項目を独自に作成し、福祉系専門学校生42名(男18名、女24名)に対し予備調査を行い、「一般の人」「障害を持った人」それぞれに対する行為の許容程度を6段階評定させた。その結果から「障害を持った人」の行為に対する許容程度の得点に対しクラスター分析を行ない22の質問項目を選別した。この22項目を「一般の人」「障害を持った人」それぞれに対する行為の許容程度を6段階評定させ、性別、学科、「障害を持った人についての知識・情報の媒体」「障害を持った人との接触程度」「障害を持った人に対し援助や理解しようとする程度」についても尋ね、さらに菅原(1984)の作成した自意識尺度21項目について7段階評定させた。

【結果・考察】

1.「障害者役割期待」の有無とその構造について: 「一般の人」と「障害を持った人」の行為に対する許容の程度得点についてt検定を行ない、22の質問項目中19項目において有意差がみられ、障害を持った人には一般の人とは異なった役割期待があることが明らかとなった。また全項目において一般の人より障害を持った人の許容程度が大きく、同じ行為でも一般の人に対してよりも障害を持った人に対して“寛容である”と考えられた。また、「一般の人」と「障害を持った人」の行為に対する許容程度得点の差を役割期待得点として因子分析を行なった結果、<援助を受ける役割><他人と関係を持つ役割><自己の意思調整する役割><性の役割><制限を守る役割><周囲へ配慮する役割>の6つの因子を抽出した。

 2. 「障害者役割期待」に影響を及ぼしている要因について: 1.で得られた6因子の役割期待得点を性別、障害を持つ人についての知識・情報の媒体、障害を持つ人との接触程度、障害を持つ人に対し援助や理解しようとする程度を要因としてそれぞれ1要因分散分析を行なったが有意差はみられなかった。さらに、公的自意識得点、私的自意識得点を算出し、高群、低群に分け2要因分散分析を行なったが有意差はみられず、今回検討した要因は障害者役割期待に影響を及ぼすものではなかった。障害を持った人に対する役割期待と一般の人に対する役割期待に違いがあることは明らかとなったが、今回の被験者において障害を持った人に対する役割期待は一様なものであった。このことは、今回の調査対象が福祉学部学生という同意識をもちやすい集団であることが考えられたが、障害者役割期待は様々な要因には左右されにくいものとも考えられた。それは、ノーマライゼーションや福祉の考え方が教育され取り入れられている現在は、それがその人の本心か建前かは別のこととして、障害を持った人に対し、寛容で許容されるべき存在と理解し表現することが当然と意識されている社会であるからではないかと考えられた。(指導教官 豊村 和真教授)