大学生の精神障害者に対する態度変容に及ぼす要因
−精神保健福祉援助実習の実習生を通して−
0107055
渡邊 英里


【目 的】
 精神障害者の社会復帰が今後進んでいく中で、我々が精神障害者と接する機会が増えることが予想される。その社会復帰のキーパーソンとして1997年に国家資格化されたのが、精神保健福祉士(以下PSW)である。しかし、PSWに関する研究は非常に少なく、PSWになるために必要な精神保健援助実習(以下実習)の実習生に関する研究もほとんど行われてこなかった。将来PSWになる実習生の精神障害者に対する態度はどのような特徴をもつのか、また実習によって精神障害者に対する態度がどう変容するのか、それに影響を及ぼす要因は何か。実習生に対するこれらの疑問を調査することを目的とした。また、面接によって更に詳細な実習内容や実習生に与える影響も合わせて調査する。

【方 法】
 北星学園大学において実習に行った者の中で、実習前の質問紙と実習後の質問紙・面接の両方に回答した22名(男性2名、女性20名)を分析対象とした。質問紙の基本項目は、以下の通りである。
 ・受容的態度16項目:生川(1995)の作成した32項目の内、本研究の目的にそぐわない総合教育尺度を除いた。尺度毎の合計得点と、尺度を構成する各項目得点との相関係数が高い上位4項目ずつを取り出し、合計16項目4因子からなる受容態度項目を作成した。質問内容の「ちえ遅れの人」または「ちえ遅れの子ども」は精神障害者という言葉に変更した
 ・接近許容4項目:鈴木(2000)が作成
 ・知識問題20項目
 ・PSWとしての就職希望の有無
実習前の質問紙には、基本項目に加えて以下の項目を調査した。
 ・実習に対する意欲(5段階)
 ・実習に行く目的(自由記述)
 ・精神障害者との接触経験(2項目+自由記述)
実習後の質問紙には、基本項目に加えて以下の項目を調査した。
 ・実習に対する達成感(5段階)

面接では、次の10項目について半構造化面接で調査した。
 @実習中に楽しかった、嬉しかったことはありましたか?
 A実習中に大変だった、困ったことはありましたか?
 B実習中に嫌だった、むかついたことはありましたか?
 C実習中に驚いた、ショックだったことはありましたか?
 D実習中に勉強になったと思うことはどんなことですか?
 E今回の実習先に将来勤めたいと思いますか?
 F勤めたい(勤めたくない)と思うのはどうしてですか?
 G実習前に比べて思っていたことと違うと思うことはどんなところでしたか?
 H実習先の職員・患者・家族との関係はどうでしたか?
 Iもっとこうすればよかった、事前にこういう知識があればよかった、こういう指導があればということはありましたか?
面接の回答は、カテゴリ化して単純集計を行った。

【結果と考察】
 その結果、実習前に受容的態度が高すぎる者は、実習を経験し、精神障害者の厳しい現実やその疾病の難しさを理解したために、精神障害者に対する態度が低下した。しかし、全体では変化はなく、実習先や個人的体験に依存する可能性が示唆された。また、実習前に期待をもちすぎることは、現実の実習におけるギャップによって受容的態度が低下する可能性があると考えられ、正確な知識と適度な意欲が受容的態度につながることが明らかとなった。接触経験については、間接的接触の効果が実習生においても確認され、実習生の精神障害者に対する受容的態度が実習前の講義によって育成されていることが示された。直接的接触によって、間接的接触では得られない、精神障害の難しさを実習で感じて受容的態度が低下した者もいたが、面接では精神障害者に対して非受容的な回答をした者はおらず、全体的には精神障害者に対する受容的態度に関して実習の有効性が確認されたと言える。
 面接の内容から、実習の目的の一つである精神障害者との関係をもつ機会になっていることは確認された。実習は、未だ多くの問題があるものの「知識獲得の場」、「PSW育成の場」、「精神患者と深く接する機会」として有効に活用されている。しかし、PSW育成の場としての働きには実習先によって偏りがあることが示され、今後一定の水準まで偏りのない、育成機能の向上が必要となっていくことが示唆された。今後更に、多人数及び長期に渡った実習に関する調査が行われることで、実習体制の確立、実習の充実化が求められる。

(指導教員 豊村和真 教授)