卒論作成に当たっての問題と反省

そこで,論文に取り掛かってから書き終え,投出するまでの過程を振り返って,自由記述式に反省を書いてもらった。
 それをまとめ,分類してみた。心理学研究,特に,卒業論文に取り組もうとしてい
る人たちにとっては参考となると思われるので,以下に挙げることにする。


1)テーマの選定について


1.興味だけで選んだが,もっと人生の課題に関するものを選べばよかった
2.日頃から自己の問題としていたことをテーマに選んだのでスムーズにいった
3.やりたいことについて的を絞りきれず研究に入ったので最後までうまくいかなかった
4.テーマが大きすぎることで迷い,なかなか的を絞るのが難しかった
5.見たいものを決定するのが遅かった
6.自分が本当に興味をもったものを選ぶ方がよいが,焦点を絞るのが大変
7.自分のやりたかったことをテーマにしたので,なかなか焦点を絞れなかったがよかった
8.テーマの選定が最も難しかった
9.テーマ選定の前にもっと多く文献をみるべきだった
10.日常生活の中からヒントをえて選定したが,過去の研究をもっと検索すべきであった
11.やりたいテーマを考えることができず,先生に与えてもらった。最後まで自信がなかった
12.やりたかったものとは違うテーマを与えられてやったが,次の研究には何か役立つだろう
13.卒論ではとうてい理解できない大きなテーマを与えられて分からないところだらけだった
14.本当にやりたかったことについてやれず,勧められたものをテーマとした
15.自分のやろうと思うものをしっかり調べながらテーマを決めるべきであった
16.幅広く資料を集めてからテーマを選定しよう

2)研究方法の計画と決定について


1.予備調査をして質問項目を選択しておけばよかった
2.簡単な方がいいと思い安易に決めてしまった
3.参考文献などを取り寄せていたのでわりとうまくいった
4.頭の中で考えたことを紙に書いてまとめるとうまくいった
5.面接で聞き取り調査をおこなったにもかかわらず,記入漏れがあり確認不足を痛感した
6.何を確かめようとしているかがはっきりしないとなかなか先に進まない
7.予備調査はあまり幅を狭くせず広い領域で質問した方がよい
8.既存の質問紙や尺度を用いるときは・妥当性・信頼性と適用可能性を考えるべきである
9. 3年生の時先輩の研究を手伝っていたので,研究方法はそれほど困らなかった
10.指導の先生に依存しすぎていたため,自分の発想が入りにくかった
11.他の学校に調査協力を依頼する場合,打ち合わせが重要である
12・研究法を決定する場合,分析方法についても考慮すべきだった
13・使用する尺度や質問鰍まきちんと吟味して選定すること
14.ある研究の方法を参考にしたが,もっと独自の方法を考えてみたらよかった
15.計画をしっかり立てておくほど,後で助かることが分かった
16.英文を翻訳させられて,その方法も十分理解できないまま始めた。大変だった
17.研究計画や方法を決定するとき,先行研究をいろいろ調べるべきであった
18.これまでの研究を多く参考にしよう

3)実験や調査のやり方について


1.質問の意味を一義的にはっきりさせておくべきであった
2.質問項目が太字と細字のものがあり,太字の質問にだけ回答したものがあった
3.着眼点が多すぎ,本来の目的がどれであるか分からなくなった,的をしぼるべきだった
4.予備調査を行って質問項目を作成したのでうまくいった
5.質問が二重の意味に解釈されないかどうか他人にチェックしてもらうとよい
6.自分で聞きたいことをはっきり表す言葉がみつからず困惑した
7.質問紙づくりは,なるべく多くの人に見せて意見を聞いた方がよい
8.誰にも理解しやすい言葉をつかうべきである
9.被験者がなかなか集まらなかった
10.被調査者を段階的に抽出し,別の日に質問紙調査をするとデータが集まりにくい
11.多くの質問項目を用いたため,空欄が多かった。事前に質問項目の検討が必要
12.先行研究と全く同じ方法で追試するのでなく,適切な方法でやった方がよい
13.調査対象者に分かるような質問項目でなければ,回答が意味をなさない
14.何度かテストをしよう

4)結果の整理方法,統計の用い方について


1.3年の時からしっかり勉強しておくべきだった
2.曖昧な統計の知識で分析して,何回もやり直し無駄な時間を費やした
3.きちんと統計法を理解した上で分析にはいるべきである
4.質問紙回答の選択肢が多すぎたり,不揃いのため有効な統計処理ができなかった
5.コンピュータ操作で,簡単な方法があることを知らず,多くの時間を要した
6.回答は早めにチェックし,不備のものは思い切って分析から外した方がよい
7.分析法は授業で習ったが,自分のデータで分析しないと身に付かない
8.統計の知識は,実際にデータを処理してはじめて身に付いてくる
9.分かりやすいよう,図や表にしたらよかった
10.自分でよく勉強していないと,コンピュータが出してくれた結果が何であるか分からない
11.コンピュータのソフトで理解できる方法を用いよう

5)解釈の仕方について


1.主観的になりがちであった。
2.結果を広く浅くみて解釈を簡単に済ませてしまった感がある
3.自分が何をやりたかったかが明確でなかったため,どう解釈してよいかわからなくなった。
4.調査結果と参考文献の内容とを関連づけ解釈することが不十分であった
5.出てきた結果を図や表にしてみると分かりやすい
6.先行研究の解釈などを参考にする方がよい
7.結果の考察は偏った見方にならないよう努めるべきである
8.一日置いて見直してみると新たな事実に気づくことがある
9.仮説と違った結果でも真っ正面から向き合うとよい解釈ができる
10.質問項目の回答を一問一問丁寧に解釈すれば,深みのある解釈ができたと思う
11.仮説と違った結果になった場合,その解釈に苦労した
12.テーマやキーワードに関連するものに知識がないと,ただの感想のみになりかねない
13.深く考えよう

6)論文にまとめるに当たって


1.日頃から文章を書く習慣をつけておいた方がよい
2.論文調の文章を書くことが少ないので,なかなか難しかった
3.論文の書き方などについては3年次に詳しく学習していた方がよい
4.結果の提示の仕方や表現の仕方について正しい書き方を知っておかねばならない
5.夏休み中に予備調査を整理し,後期が始まったら本調査を実施できるよう準備する
6.思うように文章ができずまとめるのに大変だった
7.論理的文章を書くことがあまりなかったので,難しい
8.考えていることを文章化し,他者に伝えることの難しさを感じた
9.なるべく早く本論文を書き始めること
10.早いうちから論文の書き方を学んでいた方がよい
11.他人に読んでもらって,意味が明確かどうか感想を聞くことが効果的である
12.時間をかけて丁寧に検討しよう

7)全般的に


1.余裕を持ってやらないと良いものはできない
2.もう少し早く取り組みを始めるべきであった
3.ミニ卒論のようなものを3年次に共同研究で経験していた方がよい
4.早くから取り組もうと思っていたがなかなかできなかった
5.随分前からやらねばならないと思っていたが,結局年末になり,ばたばたになってしまった
6.できるだけ早くスタートさせ,余裕を持ってゴールすべし
7.研究をスムーズに進めるに当たって,大学院生と学部生とのつながりが重要
8.発表会のとき緊張して何を質問されているのかわからなかった。度胸をつけて望むべきだ
9.発表も練習する必要がある
10.周到に準備しよう
出典:原岡一馬(2002),心理学研究の基礎,ナカニシヤ出版,付録より)