基礎演習レポート 1999/09/28−対人恐怖― 発表者 穴田 和之 司会者 蔵谷 啓 |
私達は、人前に出るとあがってしまって、自分の思う通りの発言が出来なかったり、顔が赤くなってしまうなど、他人を気にすることによって本当の自分を出せないときがある。このことは「対人恐怖」と呼ばれる神経症によって起こる問題である。そしてこの対人恐怖という問題は他の人々に較べて日本人に特別多い問題とされている。今回は対人恐怖という問題を説明し、なぜ日本人に多いのかについて考えていきたいと思う。
臨床心理学者の小川によると「対人恐怖症とは、まさしく、『対人』
対人恐怖の種類としては、
赤面恐怖、表情恐怖、醜貌恐怖、視線恐怖、自己臭恐怖、発声困難、発汗恐怖、醜形恐怖、吃音恐怖など様々な種類がある。今回はその中でも、赤面恐怖、表情恐怖、視線恐怖という三つの対人恐怖について説明する。
(1)
対人恐怖は他の国ではあまり見ることの出来ない日本独特の神経症だといわれている。それはなぜなのであろうか。レイノルズは、「今日、日本で手際良く世渡りしていくためには、自分にとって重要な人がその好みや希望を表に出したとき、それがどんな些細なものでも見逃さないようにし、また一方、自分の好みや希望を表すとき十分気をつけなければならない。そして、怒りや敵意を含んだ言葉、ぶっきらぼうな言葉、性的な表現などは厳しく配慮され、 押さえられている。」 という日本文化特有の人間関係によって対人恐怖が起きると述べ、土居健郎は、「甘えたくても甘えられない状態。つまり依頼心は満足されていないが、しかし満足心を求める心は持続しているために、相手方の出方に自分の感情が鋭敏になり、結局は自分の気持が相手によって左右される変態的な依頼関係成立することになる」と述べた。そして近藤章久は日本独特の「いえ」の学説を土台としてこの様な論説を行った。「日本の家が板戸、ふすま、障子などの軽く、薄い材料によってつくられて、たやすく取り外しの出来るところから、一室としての独立性に乏しい。だから共同生活を営むもの同士は、相互のあり方、気分、気持などを絶えず気遣い、感じあって生きていく。その様な状況の中では、言語表現によらずに、互いの精神状況を理解する感受性が助長される。そこから人目を気にすると共に、自分が気になる関係、すなわち相手にどう見られるかに関心を持ち、さらに見られる自分を気にする関係が成立する。」と述べ、そのことが「日本人の配慮的性格」と関係あるとかんがえた。このことから日本人の対人恐怖症は、この様な日本独特の社会状況や文化によって発生すると考えることが出来るのである。
レイノルズは日本人の性格の特徴として「社会的敏感性」をあげている。これは、他人の思惑や感情に極端にこだわったり、気にしたりして、「遠慮」つまり、自分のしてほしいことを控えめにしか求めず、相手に負担をかけないようにしたり、じかに相手に良くない知らせや非難を伝えないように配慮することである。
今回の対人恐怖の勉強を通じて、対人恐怖というものが、相手がいることそのものが問題なのではなく、そ の相手に対する自分自身の対処のし方が問題なのであるということがわかった。そのためにはいかにして自尊心を持つことが出来るのかということが大切なのであると考えられる。私自身も無意識のうちに上記のような対人恐怖の症状を感じることがたたある。しかし、対人恐怖は神経症であって精神病ではないので、自分自身の努力次第で治すことはある程度可能なのである。いつも他人の目を気にして行動するのではなく、もっと自分に自信を持って行動できるように努力していこうと思う。
参考・引用図書
内沼 幸雄 1990 対人恐怖 講談社現代新書 木村 駿 1982 日本人の対人恐怖 剄草書房
(2)質疑・応答
質問@ 神経症と精神病の違いは?
(答え)神経症は自分で意識できる範囲内での症状であって、精神病はその症状を自分で認識できない病気である。
質問A なぜ様々な対人恐怖の症例の中で赤面恐怖、表情恐怖、視線恐怖の三つを取り上げたのか?
(答え)様々な対人恐怖の症例のなかでもその中核群を担うとされる赤面恐怖、表情恐怖、視線恐怖の三つを取り上げた。ちなみにその周辺群を上げてみると吃音恐怖、会食恐怖、排尿困難恐怖がある。
質問B 近藤章久の「いえ」に関する論説はあまり説得力がないのではないか?
(答え)日本人に対人恐怖が多い原因として、「いえ」の理論を取り入れるというなかなか面白い学説だと思ったので乗せて見た。このことは、なぜ欧米人に比べて日本人に対人恐怖が多いのかを考えるときに一つの考え方として取り入れることが出きるのではないか。