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(1) ストレッサー
高SOC群、低SOC群のストレッサー量の平均値を比較すると、低SOCの平均値が高SOC群に比べ有意に高く(Figure1)、
ストレッサーとSOCとの相関関係がみられた(Table4)。
そこで日常いらだち事尺度を分析した結果、低SOC群のストレッサーの特徴は「将来の不安」「自分自身の過去について
の後悔」「低い自己イメージ」「対人関係における負担・問題」に評価が集中していて(Table2-1)、これらの特徴は
SOCの構成要素に関連していると考えられる。
「将来への不安」については、「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」が関与していて(Table2-2)、これらが低い
と、将来出会う刺激を予測できると考えることが困難であったり、それらを処理できるという感覚が持てないため、それ
らを脅威的なものとして捉えられやすく、また様々な問題や人生に意味を感じたり見出そうとすることが困難である。し
たがって、自分の将来に対するイメージを混沌とした、当惑させられるものとして捉えるため、不安を抱きやすいと考え
られる。
「対人関係における負担・問題」については、「把握可能感」「処理可能感」が関与していて(Table2-2)、これらが低
いと、相手が自分をどのように思っているか、また、相手がどのような人でどんな行動をとるか予測することができなく、
対人関係を脅威に感じやすい。したがって、対人関係をストレスフルなものとして評価されやすいと考えられる。
「低い自己イメージ」「自分自身の過去についての後悔」については、「有意味感」「処理可能感」が関与していて(Ta
ble2-2)、これらが低いために、自分のこれまでの人生に意味を感じることやそれを見出そうとすることが困難であるた
め、過去の自分の行動や出来事をネガティブに評価しやすく、またこれまでの人生で生じたストレッサーによってもたら
された緊張を適切に処理する経験が乏しかったと推測できる。以上のことから、有能感や適切な自己評価を発達させるこ
とが出来ず、この2項目を抱くに至ったのではと考えられる。
一方、高SOC群のストレッサーとしての特徴は低SOC群のように集中しているストレッサー項目はなく広く分散していた。
高SOC群がこれまでの人生において環境からの要求による緊張を上手く処理できた経験を多く経験しており、特定のストレ
ッサーに対する脆弱性を持っておらず、自分の内外で生ずるあらゆる環境刺激をストレッサーと評価しにくいのではない
かと考えられる。
(2) 精神的健康
高SOC群と低SOC群においてGHQ総得点とその要素スケールA,B,C,Dの各項目について平均の差の検定を行ったと
ころ、全ての項目について低SOC群の平均得点が有意に高く(Figure2)、GHQ(要素スケール含む)とSOCに強い相関関
係が見られた(Table4)。そこでTable1-1,1-2のGHQの要素スケールにおいて、中等度の精神的症状の有無をクロス集
計表にしたところ、低SOC群の精神的不調の特徴は、項目全てに訴えが集中していた。一方、高SOC群については、Aに
ついての訴えが見られるが、他にはほとんど見られなかった(Table3-1〜3-4)。これらの特徴はストレッサーに直面し
たときのSOCの機能と、それに伴う反応として考えることができる。
ストレス状況に置かれたとき、その状況の意味がどのようなものか、それに対して内外の資源を自分が使って有効に
対処できるか、解決するということに意味があるかという一連の感覚にSOCが機能する状況において、「処理可能感」と
「有意味感」が低いと、内外で起こりうる困難な物事に対処することができないと考え、それらを脅威なものとして捕
らえやすく、無力感や重荷を感じやすかったり、内外で起きている状況を対処することに意味があると感じることやそ
の意味を見出そうとすることが困難である。以上のことから、低SOC群の人々は、「不安」「仰うつ症状」を抱きやすい
と思われる。
身体的・行動的側面について、「社会的活動障害」は「日常生活における自分独自の活動」「社会的接触」に対する態
度や状態を表す項目である。また「身体症状」は「睡眠障害」「頭痛」「疲労」といった項目であり、これらは心身相
関度の高い身体症状である。低SOC群の多くの人々はが示すこれらの症状は、ストレッサーによる緊張が解消せず、持続
することにより健康破綻が身体的、行動的側面に現れたものであうと考えられる。
一方、高SOC群は、環境からの要求によって生じた緊張をうまく処理し、良質の人生経験を多く経験するため、精神的
身体的健康を持続・向上させていると考えられる。
(3) 性差
性差については、「不安・不眠」尺度においてのみ、男性が女性に比べて高かった。このSOCの機能によるものか、ス
トレッサーによる違いなのかは本研究では明らかではない。今後さらにストレッサーの側面、SOCの機能の側面など多方
面から性差について詳細に検討する必要があると思われる。
*補足*
SOCの構成要素
SOCの構成要素は以下3つから成り立っている。
「把握可能感」(comprehensibility)
自分の直面する出来事は、全て予測と説明が可能であると信じられるかどうか、という確信
「処理可能感」(manageability)
どんな困難に遭遇したとしても、それを乗り越えていくための手立て(自分自身、周囲の手助け)が自分にはあると
思えるかどうか、それを乗り越えていくための有効な資源は得られるという確信
「有意味感」(meaningfulness)
人生には生きる意味がある。好ましい出来事だけでなく、一見つらい出来事でさえ最終的には自分の人生にとってプラ
スになると思えるかどうか、起こった出来事などに対して、それに挑戦していく・関わっていくに値する意味があると
いうとらえ方
これらは経験を通して後天的に獲得していくもののようである。
*私的考察*
(1)ストレッサーにおいて、日常いらだち事尺度を分析し、特徴のあった項目を、SOCの構成要素と関連付けて、占い
師のように、いろいろとそれらしい理由付けをして、どのようなストレッサーがどのようなストレス反応となるかを考
察している。
確かにどのようなものがストレッサーとなりやすいか、という、ストレッサーの評価にはなっていると思うが、目的
@である、ストレス対処能力の強さによって、ストレッサーがどのように変わるのか。それについては、ストレス対処
能力が高いグループは自分の内外で生ずるあらゆる環境刺激をストレッサーと評価しにくいとし、両グループの違いを
現してはいるが、それは当然といえば当然のことである。
この当然であることを、実際に検証して確証を得たかったのならそれでいいが、それならば、それならばそれだけ調
べればよいことで、他のごちゃごちゃとしたややこやしいものを調べる必要はないように思える。
(2)精神的健康については、その通りだと言えばその通りで、特に反論の余地はない。
だが、研究自体が不確かで不明慮なものであるため、本当にこの通りであると思うのも、考えものである。
それに、(1)と同じく、SOC構成要素によって精神的身体的健康において、どのような症状が出るかを考察しているが、
これがSOCの強さとどういった関係にあるのかは疑問である。
またこれは、ストレッサーによる緊張が解消せず、持続することによって現れたものであって、実際に持続するかど
うかはわからないし、そういった症状が持続することによって、ストレッサーが生じるという可能性にもなり得る。
ストレス対処能力が高いグループにおいても、緊張をうまく処理するからといって、良質な人生とは言えないし、健
康状態が持続しているから、ストレッサーが生じないということも言えるのではないだろうか。
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