知識の構造

 

                           2002年11月6日

発表者 伊藤 晃

                           司会者 小林 雄太

 

(1)   エピソード記憶とは何か?

認知心理学の考え方の一つである記憶の情報処理モデルによれば、すべての人はそれぞれ基本的に同じ情報処理モデルを備えているという。情報処理システムを構成している要素は、一般に3つの貯蔵庫といくつかの制御過程からなる。3つの貯蔵庫とは、それぞれ感覚記憶、短期記憶(STM)、及び長期記憶(LTM)として知られているものである。エピソード記憶とは、このような情報の貯蔵庫の一つであるLTMを構成する記憶の一つである。

一般的にエピソード記憶とは、ある時間にある場所で生じた個人の経験に基づく出来事や事象を意識的に再現する記憶(Tulving, 1983)であり。かつLTMを構成する一つの記憶システムであるとういう二つの意味内容を含む記憶として理解されている。

前者の例としては、前期の心理学Tの記憶実験において、無意味綴りや単語を用いてそれらを記銘し、そのごに再生や再認のテストによって記銘した情報の再現を求めるといったようなものは、まさにエピソード記憶である。

次に、LTMにおける一つの記憶システムという意味でも理解されている。まず、LTMには一般に二つのタイプの知識が貯蔵されている。一つは出来事や事実・概念に関する宣言的知識である。宣言的知識を具体的に述べると「昨日の昼食でカレーを食べた」といった個人の経験に基づく出来事の知識で、タルヴィング(1972)はこのような「昨日の昼食でカレーを食べた」といった宣言的知識の記憶をエピソード記憶といった。

LTMに貯蔵されているもう一つのタイプの知識として技能に関わる手続き的知識があげられる。手続き的知識の記憶は手続き記憶と呼ばれる。手続き記憶とは、自転車の乗り方、ギターの弾き方、あるいはパソコンの使い方など、体が覚えているような記憶である。これには一連の運動プログラミングや操作の手順など、一まとまりの運動チェーンが関与している。

 

(2)   意味記憶とは?

 意味記憶とは、宣言的知識の事実的・概念的な知識で構成される。例えば、「地球は太陽の周りを公転している」などである。タルヴィングはこのような宣言的知識の記憶を意味記憶と呼んで区分した。

 

 

 

(3)   記憶情報の探索

 一度、意味記憶が形成されると、その源になったエピソード記憶は忘れ去られてしまう傾向がある。しかし、その分だけ意味記憶の扱いは重要になる。意味記憶を取り出すことは、エピソード記憶の探索に比べてはるかに容易である。ところが、エピソード記憶を取り出すことは、容易ではないことが多い。これは、「想い出」と一般に言われる記憶内容を探索することであるが、「あなたがはじめて見た映画は何か」、「一週間前の夕食に何を食べたか」に答えるようなことである。

 意味記憶内の情報は明らかに「意味的な体系」に整理されている。一方、エピソード記憶内の情報は、時間順序、場所ごとにパックされているようであるが、現在のところエピソード記憶に関する知見はそれほど得られていない。

 

 

(4)   意味記憶の構造

 コリンズとキリアン(1969)は、意味記憶モデルとして人工知能のモデルに基づく階層的ネットワークモデルを提唱した。このモデルでは、概念は上位―下位関係に基づき体制化されている。そして、各概念はネットワークにおいてノード(node)として表され、概念間の関係はリンクによって表されている。コリンズとキリアンはさらに、情報の検索がノード間のリンクをたどることにより行われ、その際リンクの移動が多くなればそれだけ時間を要するという、意味記憶における情報検索に関して最も重要な仮設を提起した。

 図一で見られるように「動物」は「鳥」と「魚」に解体され、「魚」と「鳥」は、さらに特殊な種に解体される。これはより包括的な概念を上層とする三水準の階層からなる仮説的な記憶構造を表している。これらの各水準においては、それぞれの水準に特有の情報だけが蓄えられる。「カナリアは黄色い」という情報を考えれば、カナリアとカナリアの持つ特性が同時に記憶されているはずである。言い換えれば、「カナリア」といえば「黄色い」という情報は引き出されやすいのである。他方、「カナリア」から「皮膚がある」という情報はなかなかでにくい。それは、「皮膚がある」という情報は「動物」に結合し、カナリアとは異なる水準に位置しており、呼び出すために時間がかかるからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、コリンズとキリアンの階層的ネットワークモデルは、その後多くの追試が行われ、彼らが仮定したような厳密な階層性については否定的な結果が得られている。例えば、ノード間の距離が遠くても、度重なる探索が続けられた情報は、近いものよりもすばやく探索される。だから熟知度の高い情報は探索が容易である。意味記憶モデルとしてはコリンズとロフタス(Collins&Loftus, 1975)のように、意味ネットワークは意味的類似性の系列に沿って体系化されている仮定するネットワークモデルが一般的である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引用文献

 太田 信夫 多鹿 秀継 2000年2月25日 『記憶研究の最前線』

参考文献

 RL・クラッキー 『記憶のしくみ』〜認知心理学的アプローチ〜 

 

 

質問に対する回答

  

     コリンズとロフタスの意味記憶モデルの図がよくわからない…

コリンズとロフタスによれば二つの概念間で共通の特性が多くなれば、それらの特性を通してリンクが増え、その二つの概念はより近接して関連していることになる。たとえば、種々の乗り物もしくは種々の色は、すべてそれぞれに共通の特性を通して高度に連結されている。しかし、消防車、さくらんぼ、夕焼け、バラのようなものには、共通してひとつの特性はあるが、接近しては連結されていない。意味的関連性とは、二つの概念間の相互連結集合に基づくものなのである。