00/11/08
カクテル・パーティー効果
〜雑音にうもれた声を聴く〜
発表者:土橋 一輝 司会者:佐藤 直樹
- 駅の雑踏、ゲームセンター、生徒が騒々しい講義など、我々は日常の生活で、多くの様々な
音が混じり合って聴こえてくるのをよく耳にしている。だが、その中で自分の名前を呼ぶ者が
居るとすると、その声は他の音よりも明瞭に聴こえてくる。聴こうとしている声が、周囲の声
や雑音より幾分小さくても、注意の力の働きによって聴くことが可能になるのである。ここで
は、その聴覚的選択・「カクテル・パーティー効果」について述べよう。
- 「カクテル・パーティー効果」:カクテル・パーティーは、注意を向けさえすればその声が聴き
取れるが、注意をそらすと、他の人の声と混じり合って聞き取れなくなってしまうという状況
であり、注意のメカニズムを問題にできる典型的な例として注目された。
- 聴き分け
- 我々は多くの会話の中から一つの会話だけに注意を向けることができるが、このような注意
は他の会話と異なる内容の会話に対して向けられやすい。カクテル・パーティー効果は、注意
を向けたい声より周囲の音の方がはるかに大きい場合、当然成立しないので、このような状況
に至る前の段階でこの効果は起こる。それは、必ずしも話されている内容に注意を向けるため
ではないし、話す人の唇の動きが見えるためでもない。重要なことは、実際には聴き取れてい
た会話でも、録音し、単一のマイクやテープを経由するモノラルな状態だと聴き取れなくなる
ということである。つまり、聴覚的選択は、異なる声が違った場所からやってくるために可能
なのである。音がどの場所からするかを聴き分けることができるのは、我々の耳が二つあり、
頭の両側についているためである。カクテル・パーティー効果において、音源の定位は最も重
要な要因であるとしても、さらに、声の質、強度差なども助けになっている。
- 実験1
- 目的:選択的に聴くことが可能かどうか。
内容:ステレオ・ヘッドフォンをかけた被験者に、左、右、中央の声で数字とアルファベット
を、同時に各三文字ずつ呈示した。被験者は、呈示の直後に視覚的に与えられる指示に
従って、左、右、または中央の三文字を報告する。
結果:どの位置の三文字でも報告することが出来た。
- 実験2(両耳分割聴取)
- 目的:注意が何を手がかりにして選択するか。
内容:ヘッドフォンをつけた被験者は、それぞれの耳に入ってくる二つのメッセージを聴き
ながら、その一方の言葉を声に出して復唱する。
結果:たいていの被験者は困難無く追唱できた。しかし、他方のメッセージに関する情報を
受け入れることが出来ていなかった。それでも、話し手が男か女か、途中での話し手
の性別の変化などは報告できた。
*ブロードベンドの説:さらに進んだ処理を受けるために関所を「通過」させられる信号が
ある一方、「拒否」される信号がある。
*アン・トレイスマンの説:信号を拒否すると言うよりも、それを弱めるもの。
- 実験2の結果で、「他方のメッセージに関する情報を受け入れることが出来ていなかった。」
と書いたが、その他方のメッセージが自分の名前の場合、聴き取れてしまう。また、メッセー
ジ内容が混同してしまうことがある。これは、両方のメッセージの内容的に、一部を取りかえ
た方が意味の通じる場合である。すなわち、注意による聴覚的選択はメッセージの意味内容を
追うことによっても達成されることが示されたのである。我々は一つの会話から別の会話へと
注意を切り替えたり、一つの旋律線から別の旋律線へと注意を切り替えたりすることができる
し、注意を向けていない声や旋律線についても幾分意識をしているのである。
- <感想>
- 注意のメカニズムは、まだ完全には解明されていないので、これからも少しずつこの研究の
動向を見守っていきたい。
- 【引用・参考文献】
- "心理学パッケージ4" 小川捷之・椎名 健/編著 プレーン出版
"An introduction to the Psychology of Hearing" Brian C. J. Moore
- *追加事項
- (聞き耳についてはわかりませんでした。)
- <年齢と聴力の関係>
- 人間の身体のほとんどの器官がそうであるように、耳も歳をとり、段々とその働きは鈍くな
っていく。老人性の難聴では、低音に対する聴力がほとんど落ちていないのに対し、1,000 c/s
以上の高音に対しては著しく聴力は低下し、周波数の増大と共に、また歳をとると共に聴力減
退は著しくなる。老人には音は聴こえている様子であるのに人間の言葉は全然聴き取れなくて
会話に不自由している人の多いのは、このような高音に限った聴力減退が起こるためであろう。
(「聴覚の心理学」 黒木 総一郎/著)