テレビに倣う子どもの暴力
2000/10/19
発表者 村上 綾 司会者 吉村 こと
今日の青少年の犯罪は、テレビ番組での殺人や暴力シーンが原因であると言われている。
そこで、本当に、このような番組を見続けることが原因であるのか調べたいと思った。テ
レビ番組が人間にどのような影響を与えるのかという事を、今回は幼児を例にして考えて
みる。
二つの学説
暴力シーンを見ることによって、
- 模倣や代理学習が起こり、見ている人の暴力・攻撃的行動が増大する。
- 日ごろ自分が持っている欲求不満の感情がカタルシス(※1)によって低減され、
その結果、実際の攻撃性的行動も低減する。
という2つの学説がある。
※2つの実験とも、それぞれの立場で社会心理学的な研究が行われ、それぞれに自説を
支持する実験結果を発表しているので、事態は混沌としている。ただ、子どもに関して
は、模倣・代理学習説ではないかと言われている。
模倣説の代表〜バンデューラ(A.Bandura)の実験
実験内容:
成人が「ボボドール(※2)」と呼ばれる大きな人形を殴ったり蹴ったりしているのを見
ていた子どもは、後に同じように殴ったり蹴ったりする傾向が著しく高まることを示した。
↓批判
- 成人モデルのように子どもがボボドールを殴ったのは、子どもの模倣が攻撃行動と関
係ない、反射的な模倣に過ぎないことをしめしているのではないか。
- 生きているものに対する攻撃と、人形に対する攻撃を同じように扱ってよいのだろう
か。人形を殴るから他人を殴るようになるとは言えないのではないか。
リーバートとバロンの実験
上記の批判に応えて、暴力シーンを見たあと幼児が攻撃的意図を持ち、しかも生身の人間
を攻撃する傾向が強くなるかどうかを調べたもの。
実験対象:
5〜6歳と8〜9歳の2つの年齢集団の男女幼児
実験内容:
1 a)、b)どちらかの番組をテレビのある部屋で1人で見る。
a)攻撃番組条件の構成〜
- コマーシャル2分
- アンタッチャブル(※3)3分30秒
- コマーシャル1分
b)非攻撃番組条件の構成〜
- コマーシャル2分
- 陸上競技3分30秒
- コマーシャル1分
2 テレビを見たあと別室に移る。そこには、「手伝い」「痛い」と書かれたボタンとラ
イトが1つ付いた、操作盤がある。これは、隣の部屋の子どもがしているゲームにつなが
っている。ゲームは、ハンドルを回すとライトが点くというものである。その時、被験児
はどちらか一方のボタンを押す。1つはハンドルが回しやすくなるボタン、もう1つはハ
ンドルが手を離さなければならなくなるほど熱くなるボタンである(もちろん実際には何
も起こらない)。このような教示を被験児が理解するまで行った。
3 そのあと、さらに別室に移る。そこには、非攻撃的玩具3つと攻撃的玩具1つ、91
cmと107cmのボボドールがおいてある。被験児は1人残される。実験者は被験児を隣室
からマジックミラーで観察する。
実験結果:
2に対して
性別・年齢に関わらず、「アンタッチャブル」シーンを見た群の方が「痛い」のボタンを
長く押していたことがわかった。
|
合計タイム |
「痛い」ボタン1回あたりのタイム |
アンタッチャブル |
9,92 |
3,58 |
陸上競技 |
7,03 |
2,07 |
表1 「痛い」のボタンを押した時間
※数字は、元の秒数データをWeiner変換した数値
3に対して
前もって見ていたテレビ番組による差が有意。暴力シーンを見たことによる影響のために
攻撃行動が増大することを裏付けている。また、その影響の受け方が子どもの年齢や性別
により一様ではない。(性差による主効果、番組と年齢・性別の諸交互作用が有意)
|
5〜6歳児 |
8〜9歳児 |
|
男 女 |
男 女 |
アンタッチャブル |
7,14 2,94 |
5,65 3,00 |
陸上競技 |
3,33 2,65 |
5,39
2,63 |
表2 プレイルームにおける攻撃的遊び
※数字は攻撃的玩具で遊ぶかボボドールに殴りかかるかすると1点加算して得られた攻撃
得点。
研究意義:
この研究で、子どもが示した攻撃的行動・遊びは、子どもが見た「アンタッチャブル」の
シーンの直接的模倣によらず、攻撃的行動の増大を見せた。このことは、暴力シーンによっ
て、攻撃的な意図・傾向などの、実際の行動の核となるものが子どもの中に吸収されたこ
とを示唆している可能性が高い。しかも、暴力シーンはわずか3分30秒に過ぎない。
≪わかりにくい語≫
※1…現実では満たされない欲求不満を何かによって、発散させること。
※2…突き倒されても立った状態に戻る等身大のビニール人形。
※3…銃や格闘シーンなどが多く含まれている暴力番組。
≪関連性のある研究内容≫
- 人間のテレビ視聴の始まり
乳児は、ものが見えるようになるとともにテレビに関心を持ち、1,2歳で内容を理解し
始め、3歳になった幼児の多くは見たい番組が決まり、テレビを自分の生活の中に定着さ
せていつ。幼児にはテレビの登場人物と同一化する傾向がある。
- 接触する頻度に比例して、それを好むようになることが明らかになってきた。
- 暴力シーンの種類による結果の変化
暴力シーンを、現実の人物・映画フィルムに移った人物・テレビ漫画に描かれたキャラク
ターが行う条件に分け、どの条件で攻撃性が強くなるか順位をつけたところ、「映画フィ
ルム>現実の人物、テレビ漫画>統制モデル(他の条件と比較するためにつけた、何も見な
い条件)」となった。つまり、映像に描かれた暴力モデルの示した言語的攻撃と身体的攻
撃を子ども達は確かに模倣した。
- 攻撃の習得は代理強化にかかわらず行われ、それが実行されるかどうかは他の要因に
依存して決まるといえる。
調べてみて〜感想
今回、このテーマを調べることによって、テレビを子どもの関係について様々な実験が行
われてきたことがわかった。しかし、そのどれもが「これ!」をいう結果にならない、実
験・研究の困難なテーマだとわかった。教職をとっている私にはより興味深いものであっ
た。1つの講義という枠から離れて独自に、もっと多くの実験を調べていきたいと思う。
≪引用・参考文献≫
「心理学パッケージPart4」 小川捷之・椎名健 プレーン出版 1987
「テレビと子どもの発達」 無藤隆 東京大学出版会 1997
授業で出た質問とその答え
リーバーンとバロンの実験内容
2に対して
20回の試行とはどういうことか?一人でやったのか?
1人が15秒おきに20回やったようです。(私の和訳によると…)ということはこの実
験は新たな問題が発生することになります。実験者の意図はわかりませんでした。原著論
文を見たい方は私に言って下さい。
Wiener変換した数値とは何か?

3に対して
非攻撃的玩具とは具体的に何か?
a slinky,cookset,spacestationだそうです。
Cf.攻撃的玩具:銃、ナイフ
91cmと107cmの2つのボボドールをおいたのはなぜか?
原著論文に載っていなかったのでわかりませんでした。(悪しからず)
アンタッチャブル(暴力的な番組)を3分30秒 見るのは長いか短いか?
実験者の意図はわかりませんでした。私個人としては、3分30秒で終わる番組はない
ので短いと感じました。
参考
リーバーンとバロンの実験1に対して
- 2分間のコマーシャルの内容
- 1970年初めのあるペーパータオル会社のCM(1分間)
- ユーモラスな映画のCM(1分間)
- 1分間のコマーシャルの内容
- 自動車のタイヤのCM
- アンタッチャブルの内容
- 2回のグーで殴る喧嘩のシーン
- 2回の銃撃シーン
- 1回のナイフシーン
- 非アンタッチャブルの内容
- ハードルレース
- ハイジャンプ など