1 はじめに

 最近のパソコンのハードウェアやソフトウェアの進歩により誰でも簡単にパソコンを利用できるようになってきている。

 パソコンに操作ミスは起こるものであり、パソコンをブラックスボックスとして使用している限り、トラブルに遭遇したときに対処できない。統計解析のソフトウェアの操作法をマスタ−しても、データ処理の結果を疑いもしないという態度では、統計解析ではなくデータを無意味に加工しているだけである。ソフトウェアの処理内容をある程度は理解しておく必要性は今後も無くならない。

 応用ソフトウェアの充実により、一般ユーザがプログラミングをする必要性は少なくなってきている。しかし、他人と情報を交換したり、データを問題に合わせて加工しようとすると、その応用ソフトウェアが提供する処理内容を調べ直したり自分でマクロ・プログラミングをして少し拡張する必要に迫られる。

 更に、ソフトウェアの種類が増え、頻繁に改良版や機能拡張を発表して国内国外を問わず競合する現状を考えると、利用目的や導入規模に応じて適切なソフトウェアを選択する見識を持つことは今後ますます重要になってくる。そのためには若いころの本格的なプログラミングの学習が有効であると考えられている。

 一つのプログラム言語の文法とプログラミングの方法を学び、簡単な応用ソフトウェアを設計し、実際に動くソフトウェアに仕上げるまでを実習する、その過程でソフトウェアの処理内容やパソコンの動作原理を把握できる。市販のソフトウェアの処理内容を推察し、その役割を理解できる。 符号化やデータ圧縮とそのアルゴリズムなど情報科学の基礎概念は抽象的で講義を聴いただけでは分かり難いものであるが、それらをプログラミングの例として実習することで理解に役立てることができる。

 現在、Windows95が走るパソコンを対象とした応用ソフトウェアを従来よりも比較的簡単に作成できる開発ツール(プログラム言語処理系)が安価で手に入る。プロトタイプ的な半完成品ソフトウェアが多数準備されており、これを組み合わせることにより、初心者でもWindows95上で動く実用的なソフトウェアを作成できる。自分で組み立てたソフトウェアであるからその処理内容を推察しやすいことことは勿論であるが、パソコンに接続しているマルチメディア機器を操作できるものを完成したときの達成感は教育的にも重要である。楽しみながら論理的な思考力を養成することが可能であると期待できる。

注:プログラミングの必要性
代表的な統計解析プログラムであるSASを利用するには、最初から簡単なプログラミングが必要になる。 WWWを利用して個人がいわゆるホームペ−ジを作成するには、構造化された文書を記述するためのHTMLという言語を理解してその文書をプログラミングする必要がある。

2 ソフトウェアの役割

2-1 ソフトウェアとは

 コンピュータを含むハードウェアを利用するには目的のプログラムとその使用説明書(マニュアル)が必要である。一般にプログラムとマニュアルを合わせたものをソフトウェア(software)と呼ぶ。コンピュータを実際に利用するにはより具体的な知識が必要であり、それらを与える様々な情報もソフトウェアと見做されている。例えば、コンピュータを利用して測定データを処理するには、

といった情報が必要になる。コンピュータを取り囲むハードウェア機器以外のものすべてを広義のソフトウェアというわけである。そのハードウェア機器の中にも他の機器との相互の制御信号の処理のためにソフトウェアが組込まれている。

 コンピュータのソフトウェアには、ハードウェアに近い堅いソフトウェアから人間の思考に近い柔らかいソフトウェアまで非常に多くのレベルのものがある。オペレーティングシステム(OS, Operating System)や通信管理システムなどの基本ソフトウェア(Basic software)が堅いソフトウェアの代表であり、柔らかいソフトウェアの多くは一般ユ−ザ向けの応用ソフトウェア(Application)と呼ばれるものである。コンピュータと人間が直接的に接する部分にはGUI(Graphical User Interface)と呼ばれる対話処理プログラムが働いていおり、最近は基本ソフトウェアの一部として標準化が進んでいる。このため1つの応用ソフトウェアの利用に習熟すれば、他への移行が楽にできる。

 専門的な利用、例えば、ソフトウェアを製品として作ったり、大量のテキストデータや多様なメディアデータを管理するためには、グログラム言語処理系(開発環境)やファイル処理やデータベース管理などをするソフトウェアが必要である。

 専門職としてのプログラマが作るソフトウェアと、EXCELやSASなどの応用ソフトウェアを使って一般の利用者が作るソフトウェアでは全く性格が違う。このような応用ソフトウェアを作るには適切な開発環境が必要であり、さらに使いやすくするには人間との対話方式が分りやすいこと及び誤用防止には案内情報(ヘルプ)が充実されていなくてはならない。応用ソフトウェア自身の信頼性が高くなければコンピュータに仕事や計算を任せることもできないことは言うまでもない。本章ではプログラマが作るソフトウェアを中心に説明する。

2-2 プログラムの作成

 ソフトウェアとは、広い意味では、コンピュ−タのプログラム、入力データの仕様、使用説明書、案内情報、文字の形と大きさ、出力図表の仕様、アルゴリズム、設計仕様書、などがすべて含まれるが、狭い意味では、単にコンピュ−タのプログラムを指してソフトウェア呼んでいる。

プログラムとは、

プログラムの作成とは

 

2-3 ソフトウェア開発の特徴

2-4 システムエンジニアへの期待

 ソフトウェア開発は労働集約型業務の典型であり、ソフトウェアの開発が技術的・工学的にハードウェアの開発と対等になることは当面ないであろう。

 ハードウェアの製造技術が進み、より高機能・高品質のハードウェアが短時間で開発できるようになった。ハードウェアとソフトウェアをまとめて一段高いシステム(system、体系)という立場から眺め、それらを同時に扱おうとする動きが強くなってきた。コンピュータを十分に利用するためには良いシステムを構築することが大切である。

 システムという言葉はさまざまな場合に使われている。コンピュータの分野では、必要なハードウェアを全体として1つのコンピュータに組み立てたときコンピュータシステムといい、それを利用するためのソフトウェアの基本機能の一部をまとめたものをネットワーク管理システム(NOS)とかデータベース管理システム(DBMS)というように呼ぶ。しかし、単にシステムと呼ぶときには、ハードウェア、ソフトウェア、人的資源、を1つの体系として考えた場合をいう。ハードウェアの中には通信回線も含める。最近のように社会の変化が激しい時代には、どこまで先を見通し、今はどの段階のシステムを作るかという検討が重要である。

 物流システムを例にとると、ハードウェア、ソフトウェア、端末コンピュータの操作員、貨物の仕分けやトラックの運行管理、道路事情や配達地点との通信管理、各パートでの費用や進捗状況の管理、まで含めて考えることになる。こういったシステムづくりを担当するシステムエンジニア(SE)の責任はこれからも益々大きくなるであろう。

 SEはハードウェアやソフトウェアの設計者と利用者とをつなぐ役目も持っており、利用者の要求を設計者に伝え、より良いシステムに纏め上げる責任を担っている。システムが複雑かつ多様化してくると、利用者と設計者の間に誤解が生まれ、単なる無駄ではなく混乱を生じることが起こっている。製品となるシステムの数は応用分野または業種別・業務別だけあるわけで、対象業務もわかりソフトウェアの専門知識を身につけたSEの育成は容易なことではない。  第2種情報処理技術者試験(通産省)はSEを目指し人の最初の認定資格として位置づけられている。プログラミム言語は、C,COBOL,FORTRAN,CASLの4言語から1つを選択する。

2-5 システムアドミニストレータ

 また、最近はシステムアドミニストレータ(SAD)といって、利用者とSEの間にあって企業またはその一部門における情報化を企画し、利用者の要求を分析し、その部門の情報化の構築と運用に責任を持つ専門職が注目されている。彼らは情報化された職場での利用者の環境整備と教育支援にも責任を持つEUC (Edn User Computing) の推進者である。 その資格がシステムアドミニストレータである。 これは1994年からスタートした通産省の情報処理技術者試験による認定資格であるが、現在は初級と上級に別れている。初級SADに要求される能力にはEUC(End User Computing)が重要なウェイトを占めている。昨年97年の受験者数は84,037人で合格率は34.5%である。詳細はここ


1998/04/17 T.Katayama