基礎演習

リスキー・シフト〜集団による決定と個人の決定〜


2001.12.20
発表者:0107045 庄司 薫
司会者:0107052 田中 航

会社によっては、経営方針の決定などを、ワンマン社長が一人で行う会社もあろうし、 複数の幹部の合意によって意志決定の行われる会社もあろう。 もし、全く同じ状況に対して意志決定をしたとすれば、 一人で決定する場合と合議によって決定する場合とで、何か一定の違いが予想されるのであろうか。


リスキー・シフトとは?

この問題を初めて実験的な手法で扱ったのはストーナー(J.F.S.Storner,1961)である。 ストーナーによると、集団討議による意志決定は、一人での意志決定に比べて、 常により冒険的な性格を帯び、危険な決定になる傾向がある、という。 このような現象をストーナーは、「リスキー・シフト(危険な意志転向)」と呼んだ。


リスキー・シフトの実験

このようなリスキー・シフトという現象は、「コーガン・ウォラック・タイプ」と呼ばれる、 意志決定課題で特徴的に見られる。 ここではコーガン・ウォラック・タイプの課題の例を少し挙げてみます。

  1. ある電気技師が、まあまあ十分な給料の今の会社にとどまるか、 給料は相当高いが何年務めさせてくれるかはわからない 別の会社に移るかの選択をしなければならない。
  2. 重い心臓病の人が、窮屈で制約の多い生活に甘んじるか、成功すれば完全に治るが失敗すれば命を奪う可能性のある 手術を受けるかの選択をしなければならない。
  3. ある会社の社長が、プラントを国内に増やすか、あるいは、政情が不安定ではあるが 収益率は国内よりはるかに高く見込める外国に進出するかの意志決定をしなくてはならない。

上記のいずれにおいても、選択肢が、保守的で現状維持的なものと、 危険は伴うが報酬的なものとの組み合わせになっていることがこれらの課題の基本的な構造になっている。 この課題に対して、被験者はより報酬的で冒険的な選択肢の成功確率が、 10回中何回以上だったらその選択肢をとるのかを答えるのである。 リスキー・シフトの代表的な実験例としては、ストーナーの研究に改善を加えて行われたウォラックたち( M.A.Wallach, N.Kogan&D.J.Bem, 1962)の研究が有名である。



実験の方法は、次のような課程で行われた。

被験者はまずそれぞれ個別に12の課題に回答。
(討議前個人決定)

実験群の被験者のみで、同性6人が一組になり、話し合いをして全員の共通見解をだしてもらう。
(集団決定)

再び個人個人に別れてもらい、個別に再度回答してもらう。
(討議後個人決定)

統制群と実験群のうち、実験群は2〜6週間後に、統制群は1週間後にもう一度個別に回答してもらう。
(長期間後の個人決定)


このとき実験群は集団による意志決定を経験するのに対して、 統制群は始終自分個人の回答をするだけである。 したがって、実験群の同一被験者の討議前と討議後の回答や、 実験群と統制群の長期看護の回答を比較することにより、 討議によってどのような影響が意志決定に及ぼされるかが分析できるわけである。

こうした課程で実験を行い、出た結果を表にまとめたものが次の表である。 (ウォラックたちの論文に報告されている結果をまとめ直したもの。)

岡本による上記の結果の表

(Wallach,M.A.,より岡本が作成。 −心理学パッケージ part5より引用−)

この表は、冒険的な選択肢の成功確率がどれくらい以上ならその選択肢を採るか、 という被験者の回答の12課題全部における平均を、さらに条件ごとで男女別に平均し、 パーセント単位で表示している。したがってこの数字は、大きければ大きいほど、 冒険的選択が行われにくく、また、小さいほど、 危険を冒してでも報酬的な選択をしようという傾向が高いことを表している。



回答の冒険度と影響力・人気の関係

集団内での相互評価による影響力・人気の高さと、討議前の回答の冒険度を分析すると、次のような結果が得られた。 討議前に冒険的な回答をしていた人ほど、討論で強い影響を与えたと評価されていたが、討論での影響力は、また、 人気の評価とも正の相関があり、討議前の冒険度と人気には相関がなかった。 そこで、統計数理的な方法で、人気の影響を除いて討議前の冒険度と影響力との関係(偏相関)を調べたところ、 この両者は優位な正の関係をもっていた。このことは、討論で積極的な役割を演じた人ほど、 もともと冒険的な回答をしていた程度が高かったことを示している。



では、なぜリスキー・シフトが起こるのか?

このリスキー・シフトという現象がなぜ起こるのかということについて、 ウォラックたちは、彼らの行った実験に基づいて以下の二つの過程を提唱している。

  1. 責任拡散過程
      →誰も集団決定について個人的に責任を負わなくてもよくなる。
  2. リーダーシップ
    →冒険的な選択をする人は、社会的状況ではリーダー的要素を備えていることが多い。

1の責任拡散過程は、要するに、選択した人数が多いことによって、もし自分のした選択が誤りであっても誰が責任をとるのか、 ということが曖昧になり、責任が曖昧になることによってよりリスキーな選択が行われやすいという考え方である。 2のリーダーシップは、上記のとおり、冒険的な選択をする人にはリーダー的素質が見られることが多い、ということである。

これらの結果から、集団意志決定の際に陥りやすい状況の一つとして、リスキー・シフトという現象が証明されている。



集団意志決定において必ずリスキー・シフトが起こる?

リスキー・シフトという現象についてですが、誰もが必ずしもリスキーな−冒険的で大穴狙い的な− 選択をすると限られているわけではありません。リスキー・シフトという現象は、「集団極性化現象」のひとつであり、 あくまでそういう傾向に陥ることがある、ということです 。集団極性化現象とは、類似した態度・考えをもった個人が集まって合議することにより、 それらの元々の態度がさらに強化されたりする現象のことを言います。 つまり、J.A.F.ストーナーの名付けたリスキー・シフトという現象に対して、 反対の方向へのシフト−冒険的ではなく慎重的な(コーシャスな)考えを主張する「コーシャス・シフト」という現象が起きることも S.モスコヴィッチらによって指摘されている。



終わりに

「集団で討議をする」ということは、結果がよい方向へ出ることもあれば、逆にとても危険な方向へ出ることもあるのだと思う。 そして、自分の意見をしっかりと持つことが大事になってくるだろう私たちの世代くらいに見られがちな行動がそれだと思う。 自分の考えをとりあえず述べてはみるが、本当にそれは正しいのだろうか、間違っているのではないだろうか、 という心配からどうしても隣近所にいる友人などに同意を求めてしまいがちである。それがよい方向へ導いてくれることもあれば、 悪い方向へひきずられてしまうこともある。また、最近のニュースでよくとりあげられていたアメリカのテロ報復についても リスキー・シフト的な面があったのではないかと思う。確かに日本があのようなテロにあったら、 私も「報復攻撃は当然」と考えるかもしれませんが、「やはりそれでは同じ事の繰り返し、穏和に解決するべきだ」 と考える人もいるでしょう。アメリカでは、当初、報復攻撃に賛成だ、という意見を持った人は70%前後くらいだったはずが、 どんどん増えて100%に近い値まで達したというニュースを以前に見たことがあります。 これもリスキー・シフトに陥った結果になるのではないかと私は考えたのですが、みなさんはどうでしょう?


(参考文献)
 「社会心理学ショート・ショート 実験でとく心の謎」   岡本浩一     新曜社 1986
 「社会心理学キーワード」                  山岸俊男     有斐閣 2001
 「社会心理学」                         内山伊知郎   建帛社    1996
 「心理学パッケージ part5  心の謎を解きあかす」  小川捷之    ブレーン出版     1985
                                     椎名 健
(引用文献)
 「社会心理学ショート・ショート 実験でとく心の謎」   岡本浩一     新曜社 1986
 「社会心理学キーワード」                  山岸俊男     有斐閣 2001
 「社会心理学」                         内山伊知郎   建帛社    1996
 「心理学パッケージ part5  心の謎を解きあかす」  小川捷之    ブレーン出版     1985
                                      椎名 健


発表を終えて

正直とても難しかったです。自分ではこう思っているのにどう伝えたらいいのか言葉が見つからなかったり、 教科書から引用した文の真意がつかめていなかったり、レジュメで誤字が多かったり・・・等不十分な点が多々ありましたが、 無事に終えられて良かったです。とても緊張しました。
そして司会の田中君にかなり助けられました。本当に感謝してます(^^;)
次にまた発表の機会が与えられたときにはもっと上手く自分の意見を述べられるように 努力したいです。